「基本給」と説明のあった賃金の半分が固定残業代だったことにより残業代の不払いがあったとして、不動産仲介の「うちナビ」(本社・東京都渋谷区、角南圭社長)の元社員(20代男性)が12日、同社に不払い分の残業代と店長からのパワーハラスメントへの慰謝料計367万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。
訴状などによると、元社員は昨年5月に入社。就職説明会で配布されたパンフレットや民間求人サイトの求人には「基本給30万円」と書かれていた。入社後は都内の店舗に配属され、連日午前8時から午前0時前後まで働いて同月には150時間、翌月は200時間の残業を行った。その後、給与明細の記載に「基本給15万円、固定割増手当15万円」とあり、基本給はパンフの半額で、60時間分の残業代が固定で支払われていることが分かったという。
元社員は長時間労働と、店長から受けたパワハラで体調を崩し、昨年7月に退社。会社側は60時間を超える残業代の未払い分として約72万円を支払ったが、未払い分がまだあるとして提訴した。元社員は「基本給は求人票の半分であり結果的にだまされた。知らずに働いている人も多いと思い声を上げた」と話している。
うちナビは「訴状が届いておらず、内容が確認できないためコメントできない」としている。
※2015/2/13 毎日新聞
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<①そもそも固定残業代制度についての是非>
【小里機材事件 最高裁昭和63年7月14日】
「基本給のうち割増賃金にあたる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労働基準法所定の計算方法による額がその額を上回るときは、その差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができる。」
※つまり、割増賃金分が①残業時間②それに対する金額、が明確に区分して残業代は全額支払っており、それを超える差額も追加で支払っている状態なら固定残業代は認められる。
<②パンフレットや求人サイトに30万円の是非>
求人広告段階は「申込みの誘引」。まだ雇用契約を結んでいるわけではない。よって道義上の話は別として違法状態とまではいえない。
なお、ハローワークの求人票も同様ではあるが、平成26年4月14日厚労省職業安定局通達「求人票における固定残業代等の適切な記入の徹底について」・・・職業安定法第5条の3(労働条件等の明示)を踏まえ、求人受理時において、求人事業主に十分な内容確認を行い、求人票上に適切に明示していくことが重要・・・として固定残業代の記載を促すこととなった。
しかし、あくまで雇用契約を結ぶときに、固定残業代についてよく確認することがお互い重要。
<③雇入通知書や雇用契約書に固定残業代の記載>
仮に、入社時の雇入通知書などに、固定残業代の記載(残業時間と残業代)が無かった場合は、近年の判例からもアウトになる。また給与明細で記載していたことをもって定額残業代が認められるものではなく、個別同意が必要。【山本デザイン事務所事件 東京地裁平成19年6月15日】
<④会社側は60時間を超える残業代の未払い分として約72万円を支払ったが、未払い分がまだあるとして提訴>
いったん支払った後、さらに未払分などがあるとして再度要求するのは、労働者側弁護士の請求パターン。事前に経営者側弁護士と相談し、これ以上の請求すべき分は無い一文を入れて、解決しておくべき事案。後から何度も請求があるのは、経営側としては精神衛生上つらいものがある。
<⑤LINEによるパワハラ>
まずLINEという、指揮命令した時刻が確認できるものがあるので、場合によっては追加の請求がある。また、パワハラ上司の処分と今後発生しない体制づくりに加え、慰謝料も必要となってくる。
採用した若者の中には、非常に権利意識の強い方も、ネット社会の今日増えてきています。昔ながらの労務管理では、かなりリスクがあります。この事件を参考にして、経営者側としては、労働関連のコンプライアンスを一歩でも高めておくことが重要だと思います。
何度も訴えられる(申し立てられる)のは、精神的にかなりダメージを受けますので。。。