時効を理由に23年分の遺族年金を受給できなかった兵庫県の60代女性が、不支給処分の取り消しを国に求めた訴訟の判決が29日、大阪地裁であった。田中健治裁判長は、社会保険事務所が窓口でずさんな対応を繰り返したため、女性が年金記録の存在を長期間証明できなかったと判断。「国の時効の主張は信義則に反する」として、23年分の年金計約2200万円の支払いを国に命じた。
判決によると、女性は1981年に会社員だった夫を亡くした。遺族年金を請求するため、85年ごろから年金手帳を持参して県内の社会保険事務所を何度も訪れたが、応対した職員から「記録がない」と告げられた。ところが、2009年2月、同じ社会保険事務所を訪れた際、突然、職員が年金記録の存在を認めた。しかし、時効(5年)を理由に81年4月~04年3月分は支給されなかった。
判決は、女性の夫の年金記録は国の「社会保険業務センター」にマイクロフィルムで保管されていたと指摘。「職員がセンターに手帳番号を照会していれば、年金記録が発見できた」と述べた。
国は裁判で「年金手帳が提示されているのに『記録がない』と回答することはあり得ない。女性の話は信用できない」などと主張。これに対し、田中裁判長は、現場職員の対応が的確だったかは疑問があるとして退けた。女性が何度も事務所に足を運んだことも認定し、「組織全体で不適切な対応をしていたと認められる」と厳しく批判した。
女性は判決後、大阪市内で記者会見し、「きちんと対応してくれれば、生活は楽になっていた」と国への怒りをあらわにした。夫は働き盛りの31歳で亡くなった。7歳と5歳の息子を抱えていた女性は、工場などでのパートで家計を支えた。「長かったが満足している。夫にも『勝ったよ』と報告したい」と涙ながらに話した。
厚生労働省年金局は「判決の内容を精査して、適切に対処したい」としている。※2014/5/29 毎日新聞
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<きっかけは年金記録問題>
いわゆる年金記録問題をきっかけに、夫(当時31歳)の死後、28年がたって見つかった記録を基に遺族年金の支払いを求めましたが、23年分については時効を理由に認められなかったとして、国に全額を支払うよう求めていた裁判です。女性は10回ほど社会保険事務所に当時問い合わせや相談をしたが、「記録なしと回答された」と主張されています。
<マイクロフィルムの調査>
年金記録問題をきっかけに、マイクロフィルムの調査は、地元の年金事務所の端末でも簡単に閲覧できるようになりました。
しかしそれまでは、記事にあるとおり、東京にありました「社会保険業務センター」に問い合わせをして、調査する必要がありました。
当時紙台帳をマイクロフィルム化した年金記録を閲覧することは、大変な手間がかかっていたのです。この「伝言ゲーム」状態の調査ですと、時間がかかる上、よい調査がなかなかできません。
さらに、全国で年金記録データを閲覧できるシステム(通称ウィンドウマシン)ができたのが1985年頃。それ以前の調査は、まさに手作業でした。
<年金は請求しないともらえない>
ところで記事によりますと国側は、「年金手帳が提示されているのに『記録がない』と回答することはあり得ない。女性の話は信用できない」としています。
詳しい状況は分かりませんが、国側は「単に請求を忘れていたんじゃないの?社会保険事務所に来ておれば、この程度の年金記録状態で記録なしと回答するなどあり得ない。」としているのでしょう。
一方年金記録の保存経緯は上記のとおり・・・
①オンライン化は今回の事件の頃、1985年頃からようやくスタート
②マイクロフィルム調査はオンライン化しておらず、東京などへ問い合わせて回答する伝言ゲーム状態
だったことから、運悪くすり抜けてしまった可能性もあります。
元年金記録調査員であった自分としては、どんな年金記録状態で、どんな判決文か気になる事案ですね。